都道府県別製造業従業者数ランキング(2023年度)

概要

製造業従業者数は、各地域の産業構造や経済力を示す重要な指標です。本記事では、2023年度の都道府県別製造業従業者数のランキングデータを分析し、地域間の格差や産業集積の状況、各地域の特徴について詳しく解説します。

日本の製造業は自動車、電子機器、機械、化学など多様な分野で国際競争力を持ち、地域経済と雇用を支える基幹産業となっています。しかし、製造業の集積は全国で均一ではなく、地域によって大きな格差が存在します。2023年度の全国製造業従業者数は約775万人で、その分布には顕著な地域的偏りが見られます。

地図データを読み込み中...

上位県と下位県の比較

上位5県の詳細分析

1. 愛知県849,965人(偏差値96.4) 愛知県は日本の製造業の中心地として圧倒的な存在感を示しています。全国の製造業従業者の約**11%**がこの1県に集中しており、2位の大阪府と比較しても約40万人(約1.9倍)も多い従業者を抱えています。

  • 主要産業: 自動車産業(トヨタ自動車を中心とした大規模な産業集積)
  • 特徴: 自動車の完成車メーカーだけでなく、部品メーカーや素材メーカーなど多層的なサプライチェーンが形成されており、幅広い雇用を創出しています。
  • 地域経済への貢献: 製造業が県内総生産の約30%を占め、日本の製造業輸出の中心地となっています。

2. 大阪府449,661人(偏差値69.3) 大阪府は多様な中小企業の集積地として、幅広い分野で製造業の雇用を生み出しています。

  • 主要産業: 金属製品、電気機器、機械、プラスチック製品など多様な分野
  • 特徴: 中小企業が多く、特定の産業に偏らない多様性が強みです。伝統的な「町工場」から最先端技術を持つ企業まで幅広く存在します。
  • 地域特性: 商業の中心地でありながら、製造業も強い「商工業都市」としての特徴を持っています。

3. 静岡県409,607人(偏差値66.6) 静岡県は自動車・二輪車産業を中心に、多様な製造業が発達しています。

  • 主要産業: 輸送機器(スズキ、ヤマハ発動機など)、電機、食品、製紙
  • 特徴: 東西に長い県土に沿って複数の産業集積地が形成されており、バランスの取れた製造業構造を持っています。
  • 強み: 中部地方と関東地方の中間に位置する地理的優位性と、豊富な工業用水や交通インフラが製造業の発展を支えています。

4. 埼玉県385,746人(偏差値65.0) 埼玉県は首都圏の製造業拠点として、東京都からの工場移転も受け入れながら発展してきました。

  • 主要産業: 輸送用機器部品、電子部品、機械、化学
  • 特徴: 大手メーカーの工場と多数の中小企業が共存し、首都圏の「ものづくり」を支えています。
  • 立地特性: 東京に近接しながらも比較的地価が安く、広い工場用地が確保できる立地条件が製造業の集積を促進しています。

5. 兵庫県362,845人(偏差値63.4) 兵庫県は重工業から先端産業まで幅広い製造業が発達しています。

  • 主要産業: 鉄鋼(神戸製鋼所など)、造船、機械、電子機器、食品
  • 特徴: 阪神工業地帯の西部を形成し、大企業と中小企業がバランス良く共存しています。
  • 地域分布: 神戸・阪神地域から播磨地域まで、県内の広範囲に製造業が分布しています。

下位5県の詳細分析

43. 徳島県47,886人(偏差値42.1) 徳島県は製造業の規模が比較的小さく、特定分野に集中しています。

  • 主要産業: 食品加工、製紙、電子部品
  • 課題: 大規模な産業集積が形成されておらず、企業数・従業者数ともに限られています。
  • 強み: LED関連産業など、特定の分野では高い技術力と集積を持っています。

44. 島根県42,194人(偏差値41.7) 島根県は製造業の集積が限られていますが、特定分野での特色ある産業が発展しています。

  • 主要産業: 鉄鋼(特殊鋼)、電子部品、機械
  • 地理的課題: 交通アクセスの制約や人口減少が製造業の発展に影響しています。
  • 特色: 出雲地域を中心に特殊鋼などの特定分野で高い技術力を持つ企業が立地しています。

45. 鳥取県31,770人(偏差値41.0) 鳥取県は人口規模が小さく、製造業の集積も限られていますが、電子部品などの分野で特色ある産業が発展しています。

  • 主要産業: 電子部品・デバイス、食品加工
  • 特徴: 人口当たりの製造業従業者数は全国平均に近く、規模は小さいながらも一定の産業基盤があります。
  • 発展の方向性: 電子部品などの分野で大手企業の進出もあり、特定分野での発展が見られます。

46. 高知県24,068人(偏差値40.5) 高知県は第一次産業と観光業が中心で、製造業の規模は小さくなっています。

  • 主要産業: 食品加工、紙・パルプ、機械
  • 課題: 地理的な隔絶性や交通インフラの制約が製造業の発展を制限しています。
  • 強み: 第一次産業と連携した食品加工業や、地域資源を活用した特色ある製造業が発展しています。

47. 沖縄県23,384人(偏差値40.4) 沖縄県は観光業とサービス業が主要産業であり、製造業の規模は全国で最も小さくなっています。

  • 主要産業: 食品加工(泡盛など)、窯業・土石製品(シーサーなど)
  • 歴史的背景: 戦後の米国統治や地理的条件から製造業よりもサービス業中心の産業構造が形成されました。
  • 今後の可能性: 地理的に東アジアの中心に位置する利点を活かした製造業の展開が模索されています。

地域別の特徴分析

地域別製造業従業者数の分布

日本の製造業従業者は地域によって大きく偏在しています。地域ブロック別の分析から、以下のような特徴が見えてきます:

地域従業者数全国シェア平均従業者数代表的な産業
中部地方約222.5万人28.7%約24.7万人自動車、機械、電機
関東地方約191.9万人24.8%約27.4万人電機、機械、化学
近畿地方約144.8万人18.7%約20.7万人機械、電機、金属製品
九州・沖縄約66.0万人8.5%約8.2万人自動車部品、半導体、食品
東北地方約57.2万人7.4%約9.5万人電子部品、自動車部品
中国地方約53.6万人6.9%約10.7万人自動車、鉄鋼、化学
四国地方約22.6万人2.9%約5.7万人紙・パルプ、機械、食品
北海道約16.5万人2.1%約16.5万人食品、機械、紙・パルプ

産業集積地域の分析

日本の製造業は特定の産業分野ごとに地域的な集積を形成しています。主要な産業集積の分析によると:

  1. 自動車関連産業(愛知県、静岡県、三重県、岐阜県、群馬県など)

    • 全国の製造業従業者の約**30%**がこの産業集積に属しています。
    • トヨタ自動車(愛知)、スズキ(静岡)、日産自動車(神奈川)などの完成車メーカーを中心に、部品メーカーが集積しています。
  2. 電機・電子産業(神奈川県、埼玉県、茨城県、長野県など)

    • 全国の製造業従業者の約**18%**がこの産業集積に属しています。
    • 半導体、電子部品、家電製品など幅広い分野の企業が集積しています。
  3. 機械・金属産業(大阪府、東京都、兵庫県、福岡県など)

    • 全国の製造業従業者の約**19%**がこの産業集積に属しています。
    • 工作機械、産業機械、精密機器などの分野で高い技術力を持つ企業が集積しています。

特徴的な地域パターン

  1. 大都市圏と地方の格差 三大都市圏(関東、中部、近畿)だけで全国の製造業従業者の約**72%**が集中しており、地方との格差が顕著です。特に愛知県を中心とする中部地方は、人口比率以上に製造業が集積しています。

  2. 内陸型製造業と臨海型製造業

    • 内陸型: 長野県、群馬県などでは精密機器や電子部品など付加価値の高い産業が発達
    • 臨海型: 千葉県、山口県などでは素材産業(鉄鋼、化学など)が発達
  3. 企業城下町型と多様型

    • 企業城下町型: 愛知県(トヨタ)、広島県(マツダ)など特定企業の影響が大きい地域
    • 多様型: 大阪府、埼玉県など多様な業種・規模の企業が集まる地域

格差と課題の多角的考察

地域間格差の実態

愛知県(約85万人)と沖縄県(約2.3万人)の間には36.4倍もの格差があります。この格差は単純な人口差以上に大きく、産業構造や歴史的背景、政策的要因など複合的な要素が影響しています。

しかし、製造業従業者数の単純な比較だけでは地域の経済力を評価できません。例えば:

  • 沖縄県は観光業が主力であり、製造業従業者が少なくても地域経済は一定の活力を持っています。
  • 地方部でも特定の分野で高い競争力を持つ「クラスター」が形成されている地域があります(例:鯖江市の眼鏡産業、燕三条の金属加工業など)。

製造業の質的側面

製造業従業者数の多寡だけでなく、以下のような質的側面も重要です:

  1. 付加価値生産性 長野県や滋賀県など、従業者数は中位でも従業者一人当たりの付加価値額が高い県があります。これは高付加価値製品の製造や効率的な生産体制が実現されていることを示しています。

  2. 研究開発機能の集積 茨城県や神奈川県など、研究開発機能を持つ事業所の割合が高い地域は、将来的な産業競争力の源泉となり得ます。

  3. グローバル展開の程度 海外展開を積極的に行っている企業が多い地域は、グローバル競争の中でも持続的な発展が期待できます。

今後の課題と展望

  1. 人口減少と人材確保 多くの地方県では人口減少と高齢化が進行しており、製造業の人材確保が大きな課題となっています。特に若年層の確保が困難になる中、生産性向上や外国人材の活用などの対応が求められています。

  2. デジタル化・自動化への対応 第4次産業革命(Industry 4.0)の進行に伴い、IoTやAIを活用したスマートファクトリー化が進んでいます。この変革への対応力が地域間の競争力格差をさらに拡大させる可能性があります。

  3. サプライチェーンの再構築 新型コロナウイルスやウクライナ危機などの国際情勢の変化により、サプライチェーンの見直しが進んでいます。この流れの中で国内回帰の動きもあり、地方の製造業にとって新たなチャンスとなる可能性もあります。

  4. 脱炭素化への対応 2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みが本格化する中、エネルギー多消費型の製造業は大きな転換を迫られています。この対応力も地域間の競争力を左右する要因となるでしょう。

統計データの詳細分析

基本統計量からみる特徴

2023年度の都道府県別製造業従業者数データを統計的に分析すると、以下のような特徴が見られます:

  • 合計: 約775万人
  • 平均値: 約16.5万人
  • 中央値: 約11.6万人
  • 標準偏差: 約14.8万人
  • 第1四分位数(Q1): 約6.4万人
  • 第3四分位数(Q3): 約21.1万人
  • 四分位範囲(IQR): 約14.7万人

平均値が中央値を大きく上回っていることから、データは右に歪んだ分布をしており、一部の都道府県に製造業従業者が集中していることがわかります。特に愛知県は統計的に明確な外れ値であり、日本の製造業における特異な位置づけを示しています。

偏差値から見る地域の位置づけ

偏差値50を全国平均とすると:

  • 偏差値60以上の都道府県は7つのみで、上位層への集中が顕著です。
  • 偏差値40〜50の都道府県が最も多く、中位層が厚いことを示しています。
  • 最高の愛知県(96.4)と最低の沖縄県(40.4)では56ポイントの開きがあり、格差の大きさを表しています。

データの階層構造

製造業従業者数によって都道府県は大きく以下の4つの階層に分けられます:

  1. 最上位層(愛知県のみ:約85万人)

    • 自動車産業を中心とした突出した産業集積
  2. 上位層(大阪府、静岡県、埼玉県、兵庫県、神奈川県:約36万人〜45万人)

    • 多様な製造業が発達した大都市圏の中核県
  3. 中位層(茨城県〜岩手県:約8.7万人〜27.8万人)

    • 特定分野での産業集積や地方の中核県
  4. 下位層(佐賀県〜沖縄県:約2.3万人〜6.4万人)

    • 製造業以外の産業が中心の地域や人口規模の小さい県

まとめ

2023年度の都道府県別製造業従業者数ランキングからは、日本の製造業の地域的な集積パターンと地域間格差の実態が浮かび上がります。愛知県を頂点とする自動車産業集積地域、大阪府・兵庫県などの多様な製造業が集積する地域、そして製造業の集積が限られる地域との間には大きな格差が存在しています。

この格差は単に数字上の問題だけでなく、地域経済の安定性、技術革新の可能性、若年層の雇用機会、さらには地域のアイデンティティにまで影響を与えています。特に製造業は他産業と比較して安定した雇用と比較的高い賃金水準を提供する傾向があり、地域の経済基盤として重要な役割を果たしています。

一方で、製造業の単純な量的拡大だけが地域発展の唯一の道ではないことも認識すべきです。各地域が持つ固有の強みや資源を活かした特色ある産業発展の道筋も存在します。例えば、高知県や沖縄県のように第一次産業や観光業と連携した高付加価値な食品加工業の発展や、地域資源を活用した特色ある製品開発など、製造業の「質」を重視した発展モデルも考えられます。

また、近年のデジタル化やリモートワークの拡大は、地理的条件による制約を緩和し、地方での製造業発展の新たな可能性を開きつつあります。特にデジタル技術を活用したスマートファクトリー化や、研究開発機能の地方分散などは、従来の製造業集積地域以外での発展可能性を高めています。

今後の日本の製造業が持続的に発展していくためには、単純な地域間競争ではなく、各地域の特性を活かした相互補完的な産業生態系の構築が重要になるでしょう。また、人口減少や国際競争の激化といった課題に対応するためには、生産性向上、人材育成、イノベーション創出など質的な発展への転換も不可欠です。

製造業従業者数という指標は地域経済の一側面を表すものですが、この数字の背後にある産業構造の多様性、技術力、イノベーション能力などの質的側面も含めて総合的に地域の産業力を評価することが、これからの地域産業政策には求められるでしょう。

出典