都道府県別高齢就業者割合ランキング(2020年度)

概要

高齢就業者割合とは、65歳以上の人口のうち、就業している人の割合を示す指標です。この指標は、高齢者の労働参加の度合いを表し、地域の産業構造や雇用環境、高齢者の健康状態などを反映しています。2020年度のデータによると、都道府県間で大きな差があり、農業が盛んな地域や地方部で高い傾向が見られます。

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上位県と下位県の比較

上位5県と下位5県の詳細説明

上位5県

1位は長野県30.6%(偏差値76.4)と全国で最も高い高齢就業者割合を示しています。長野県は農業が盛んで、高齢者が農業に従事し続ける傾向が強いことが要因と考えられます。

2位は山梨県29.8%(偏差値72.3)となっています。山梨県も果樹栽培などの農業が盛んであり、高齢者の就業機会が多いことが背景にあります。

3位は福井県29.0%(偏差値68.3)です。福井県は伝統的な繊維産業や眼鏡産業など、高齢者の技術や経験が活かせる産業が存在することが高い就業率につながっています。

4位は同率で島根県佐賀県で、ともに28.1%(偏差値63.7)です。両県とも農林水産業が基幹産業となっており、高齢者が長く働き続ける環境があります。

下位5県

47位は奈良県21.6%(偏差値30.8)と最も低い割合となっています。奈良県はベッドタウンとしての性格が強く、高齢者の就業機会が限られていることが要因と考えられます。

45位は同率で大阪府沖縄県で、ともに21.7%(偏差値31.3)です。大阪府は都市部特有の雇用環境が、沖縄県は観光業中心の産業構造が影響していると考えられます。

44位は兵庫県22.3%(偏差値34.3)、43位は北海道22.6%(偏差値35.9)となっています。兵庫県は大都市圏の特性、北海道は厳しい気候条件や産業構造が影響していると考えられます。

地域別の特徴分析

東北地方の特徴

東北地方では、岩手県(7位、27.5%)と山形県(6位、27.8%)が特に高い数値を示しています。これらの県は農業や林業が基幹産業であり、高齢者が第一次産業に従事する割合が高いことが背景にあります。福島県(15位、26.3%)や青森県(19位、25.6%)も全国平均を上回っており、東北地方全体として高齢者の就業率が高い傾向があります。一方、宮城県(34位、24.3%)は東北地方の中では低く、これは仙台市という大都市を有し、産業構造が異なるためと考えられます。

関東地方の特徴

関東地方では東京都(19位、25.6%)が比較的高く、栃木県(10位、26.7%)や群馬県(14位、26.4%)も上位に位置しています。農業が盛んな北関東では高齢者の就業機会が多いことが影響していると考えられます。一方、神奈川県(42位、22.7%)や千葉県(40位、23.8%)は低く、大都市圏のベッドタウンとしての性格が強いことが影響していると思われます。埼玉県(32位、24.5%)も全国平均をやや下回っています。

中部・北陸地方の高さ

中部・北陸地方は全国的に見ても高齢就業者割合が高い地域です。長野県(1位、30.6%)と山梨県(2位、29.8%)がトップ2を占め、福井県(3位、29.0%)も3位に位置しています。また、岐阜県(8位、27.2%)、石川県(11位、26.6%)、富山県(13位、26.5%)、静岡県(11位、26.6%)と、軒並み高い数値を示しています。この地域は伝統産業や農業が根付いており、高齢者の就業機会が多いことが特徴です。愛知県(21位、25.4%)は中部地方の中では低めですが、これは名古屋市を中心とした都市部の影響と考えられます。

近畿地方の低さ

近畿地方は全国的に見て高齢就業者割合が低い傾向にあります。特に奈良県(47位、21.6%)、大阪府(45位、21.7%)、兵庫県(44位、22.3%)が全国の下位を占めています。京都府(34位、24.3%)も全国平均を下回っています。これらの地域は都市部が多く、サービス業や大企業中心の産業構造であることが影響していると考えられます。一方、和歌山県(23位、25.3%)は近畿地方では比較的高く、農業や漁業が盛んな地域性を反映しています。

中国・四国地方の特徴

中国・四国地方では、島根県(4位、28.1%)と鳥取県(8位、27.2%)が高い数値を示しています。山陰地方は第一次産業が盛んで、高齢者の就業機会が多いことが背景にあります。一方、山口県(39位、24.0%)は比較的低く、中国地方内でも地域差があります。四国地方では高知県(23位、25.3%)が最も高く、愛媛県(34位、24.3%)が最も低くなっています。

九州・沖縄地方の二極化

九州地方では佐賀県(4位、28.1%)が特に高く、宮崎県(16位、26.2%)、熊本県(17位、25.8%)、鹿児島県(17位、25.8%)も全国平均を上回っています。一方、福岡県(41位、23.6%)は低く、九州内での地域差が顕著です。これは福岡県が都市部を多く抱え、サービス業中心の産業構造であることが影響していると考えられます。沖縄県(45位、21.7%)は全国で最も低い水準にあり、観光業中心の産業構造や独特の文化的背景が影響していると思われます。

格差や課題の考察

産業構造による格差

高齢就業者割合の地域差は、各都道府県の産業構造と密接に関連しています。農業や林業、伝統的な地場産業が盛んな地域では、高齢者の経験や技術が活かせる就業機会が多く、高齢就業者割合が高くなる傾向があります。長野県、山梨県、福井県などがこれに該当します。

一方、サービス業や大企業中心の産業構造を持つ都市部では、定年制度が厳格に運用されていることや、高齢者に適した就業機会が限られていることから、高齢就業者割合が低くなる傾向があります。大阪府、兵庫県、神奈川県などの大都市圏がこれに該当します。

高齢者の就業と健康

高齢就業者割合が高い地域は、高齢者の健康寿命も長い傾向があります。例えば、長野県は健康寿命でも上位に位置することが多く、就業と健康の間には相関関係があると考えられます。適度な労働は高齢者の身体的・精神的健康を保つ効果があり、社会とのつながりを維持することで認知機能の低下を防ぐ効果も期待できます。

一方で、肉体的に負担の大きい農作業などに従事している高齢者も多く、身体的な負担が健康に悪影響を及ぼす可能性も考慮する必要があります。高齢者の健康状態に応じた適切な労働環境の整備が課題となっています。

地域経済と高齢者就業

高齢者の就業は地域経済の活性化にも寄与しています。特に過疎化が進む地方では、高齢者が地域の産業や農業を支えており、重要な労働力となっています。高齢者の経験や技術を活かした地場産業の維持・発展は、地域経済の持続可能性を高める効果があります。

しかし、高齢者に依存した労働市場は持続可能性に課題があります。若年層の雇用創出とのバランスが取れていない場合、地域産業の技術継承や将来的な発展に支障をきたす恐れがあります。高齢者と若年層がともに活躍できる産業構造の構築が、地域経済の健全な発展には不可欠です。

社会保障制度との関連

高齢者の就業は社会保障制度にも影響を与えます。高齢就業者割合が高い地域では、高齢者が収入を得ることで経済的に自立している割合が高く、社会保障費の抑制につながる可能性があります。また、就業を通じた社会参加は、医療・介護の需要を減少させる効果も期待できます。

一方、高齢者が経済的な理由から就業せざるを得ない状況も考慮する必要があります。年金だけでは生活が厳しいために就労している高齢者も少なくありません。社会保障制度の充実と高齢者の就業促進は、バランスのとれた政策として検討される必要があります。

統計データの基本情報と分析

統計的分析

2020年度の高齢就業者割合の統計データを分析すると、以下のような特徴が見られます:

  1. 全体的な傾向: 全国の高齢就業者割合の平均値は約25.2%、中央値は約25.1%とほぼ一致しており、データの分布に大きな偏りはありません。これは、極端に高い、または低い都道府県がある一方で、多くの都道府県が平均値付近に分布していることを示しています。

  2. 最大値と最小値: 最大値(長野県の30.6%)と最小値(奈良県の21.6%)の差は9.0ポイントあり、都道府県間に無視できない格差が存在します。このような格差は、各地域の産業構造や雇用環境、文化的背景などの違いを反映していると考えられます。

  3. 標準偏差: 標準偏差は約2.1%程度で、データのばらつきは比較的小さいと言えます。多くの都道府県が平均値から±2.1%の範囲内に分布していることを示しており、極端な外れ値は少ないことがわかります。

  4. 四分位範囲: 第1四分位数(Q1)は約24.3%、第3四分位数(Q3)は約26.6%で、四分位範囲(IQR)は約2.3%です。これは、中央の50%の都道府県の高齢就業者割合が24.3%から26.6%の間に収まっていることを示しており、データの中心部分は比較的均質であることがわかります。

  5. 地域的特徴: 上位県は中部・北陸地方や東北地方に集中し、下位県は近畿地方や大都市圏に多いという地域的な特徴が明確に表れています。これは、各地域の産業構造や文化的背景の違いを反映した結果と考えられます。

まとめ

2020年度の高齢就業者割合は、長野県が30.6%で全国1位、奈良県が21.6%で全国47位となりました。農業や伝統産業が盛んな地方県で高く、大都市圏で低い傾向が明確に表れています。

高齢者の就業は地域経済の活力維持に貢献する一方で、若年層の雇用創出とのバランスや、高齢者の健康・福祉との関連など、多角的な視点での政策立案が求められます。今後の高齢化社会において、高齢者の就業環境整備は重要な課題であり、地域特性に応じた取り組みが必要です。

特に、高齢者の知識や経験を活かせる新たな就業機会の創出や、健康状態に応じた柔軟な働き方の導入、世代間の技術継承を促進する仕組みづくりなどが重要となるでしょう。高齢者が生きがいを持って働き続けられる社会の実現は、少子高齢化が進む日本社会の持続可能性を高める鍵となります。

出典