概要
2022年度の都道府県別旅館等営業施設数(客室数)を比較すると、東京都が全国1位で205,381室、北海道が2位で123,430室、大阪府が3位で122,729室となっています。宿泊施設数は観光資源や都市規模、ビジネス需要などによって大きく異なり、観光地や大都市圏で多い傾向にあります。
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上位5県と下位5県の比較
上位5県の特徴
- 東京都(205,381室、偏差値97.3): 日本の首都として国内外からの観光客やビジネス客が多く、多様な宿泊施設が集中しています。高級ホテルからビジネスホテル、カプセルホテルまで幅広い施設が存在します。国際的なホテルチェーンの進出も多く、外国人観光客の受け入れ体制も整っています。
- 北海道(123,430室、偏差値74.2): 広大な面積と豊かな自然環境を活かした観光地として人気があり、温泉地や主要都市に多くの宿泊施設が点在しています。季節によって需要が変動する特徴があります。特に冬季のスキーリゾートや夏季の避暑地として国内外から多くの観光客を集めています。
- 大阪府(122,729室、偏差値74.0): 関西の中心都市として観光客やビジネス客が多く、特にインバウンド需要の増加により宿泊施設が増加しています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどの観光施設も集客に貢献しています。道頓堀や新世界など独自の観光資源も宿泊需要を支えています。
- 静岡県(68,611室、偏差値58.7): 伊豆半島や熱海などの温泉地、富士山周辺の観光地を有し、首都圏からのアクセスも良好なため多くの宿泊施設が存在します。伊豆や熱海などの伝統的な温泉旅館から、都市部のビジネスホテルまで多様な宿泊施設が立地しています。
- 愛知県(68,158室、偏差値58.6): 名古屋市を中心としたビジネス需要に加え、セントレアなど国際空港の利用客も多く、宿泊施設数が多くなっています。産業観光や商用目的の宿泊需要が安定しており、都市型ホテルが中心となっています。
下位5県の特徴
- 佐賀県(9,522室、偏差値42.1): 観光資源が比較的少なく、主要な観光ルートからも外れているため、宿泊施設数が全国で最も少なくなっています。隣接する福岡県や長崎県に宿泊拠点を置く観光客も多く、宿泊需要が分散しています。
- 徳島県(9,610室、偏差値42.1): 四国の中でも観光客数が比較的少なく、宿泊施設数も限られています。阿波踊りの時期には一時的に需要が高まります。四国遍路の一部としての来訪者はあるものの、長期滞在する観光客は限られています。
- 鳥取県(9,730室、偏差値42.1): 人口が最も少ない県であり、観光地としての知名度も比較的低いため、宿泊施設数も少なくなっています。砂丘などの観光資源はあるものの、宿泊を伴う長期滞在型の観光が少ない傾向にあります。
- 奈良県(10,209室、偏差値42.3): 世界遺産など貴重な観光資源を有するものの、大阪や京都からの日帰り観光が多く、宿泊施設数は少なくなっています。歴史的な制約から宿泊施設の開発も限られている地域があります。
- 高知県(10,350室、偏差値42.3): 四国の中でも交通アクセスが比較的不便で、観光客数も限られているため、宿泊施設数が少なくなっています。坂本龍馬関連の観光資源や四万十川などの自然資源はあるものの、宿泊を伴う観光は限定的です。
地域別の特徴分析
関東地方
東京都(205,381室、偏差値97.3)が突出して多く、千葉県(59,805室、偏差値56.2)、神奈川県(57,172室、偏差値55.5)と続きます。首都圏では観光需要とビジネス需要の両方が高く、多様な宿泊施設が存在します。特に東京都は国際的なホテルチェーンの進出も多く、外国人観光客の受け入れ体制も整っています。一方、埼玉県(26,454室、偏差値46.8)や茨城県(28,957室、偏差値47.5)は相対的に宿泊施設数が少なく、東京都への日帰りアクセスが容易なことから宿泊需要が分散している面もあります。
関西地方
大阪府(122,729室、偏差値74.0)と京都府(49,952室、偏差値53.5)が関西地方の中心となっています。特に京都市内や大阪市内の観光地周辺に多くの宿泊施設が集中しています。兵庫県(46,953室、偏差値52.6)も神戸市や城崎温泉などの観光地を有し、一定の宿泊施設数を確保しています。一方、滋賀県(15,053室、偏差値43.6)や奈良県(10,209室、偏差値42.3)は京都府や大阪府からの日帰りアクセスが容易なことから、宿泊施設数が比較的少なくなっています。
中部・東海地方
愛知県(68,158室、偏差値58.6)が中部地方で最も宿泊施設数が多く、名古屋市を中心としたビジネス需要が高くなっています。静岡県(68,611室、偏差値58.7)も伊豆半島や熱海などの温泉地を有し、多くの宿泊施設が立地しています。長野県(63,260室、偏差値57.2)は多くの温泉地やスキーリゾートを有し、季節によって需要が変動する特徴があります。一方、福井県(15,524室、偏差値43.8)や富山県(16,278室、偏差値44.0)は相対的に宿泊施設数が少なく、観光地としての知名度や交通アクセスの問題も影響しています。
九州・沖縄地方
沖縄県(63,536室、偏差値57.3)が九州・沖縄地方で最も宿泊施設数が多く、リゾート地としての特性から高級ホテルや大型リゾート施設が多く立地しています。福岡県(64,194室、偏差値57.5)も九州の玄関口として多くのビジネス客や観光客が訪れ、宿泊施設数も多くなっています。一方、佐賀県(9,522室、偏差値42.1)は九州の中でも宿泊施設数が最も少なく、観光資源の少なさや隣接県への宿泊需要の流出が影響しています。大分県(25,414室、偏差値46.5)は別府や由布院などの温泉地を有し、特色ある宿泊施設が集積しています。
東北・北海道地方
北海道(123,430室、偏差値74.2)が突出して多く、広大な面積に対して点在する観光地に多くの宿泊施設が設置されています。東北地方では福島県(41,820室、偏差値51.2)が最も多く、宮城県(34,267室、偏差値49.0)が続いています。仙台市を中心としたビジネス需要と松島などの観光地での需要があります。一方、秋田県(15,117室、偏差値43.6)や青森県(19,340室、偏差値44.8)は相対的に宿泊施設数が少なく、観光客数の減少や人口減少の影響も見られます。山形県(19,570室、偏差値44.9)は蔵王や銀山温泉などの温泉地を有し、特色ある宿泊施設が存在します。
宿泊施設数の格差と課題
宿泊施設数の地域間格差は、観光資源の分布や交通アクセス、都市規模などによって生じています。東京都と佐賀県では約21.6倍もの差があり、この格差は観光客数や宿泊需要の差を反映しています。
特に地方部では観光客数の減少や施設の老朽化により、宿泊施設の廃業も増加しています。後継者不足や維持コストの増加も廃業の要因となっており、地域の観光産業の持続可能性に影響を与えています。
また、近年では民泊やゲストハウスなど新たな形態の宿泊施設も増加しており、従来の旅館やホテルとの競争も激化しています。特に都市部では国際的なホテルチェーンの進出も進み、宿泊施設の二極化(高級ホテルとローコストホテル)も進んでいます。
統計データの基本情報
この統計データは2022年度の都道府県別旅館等営業施設数(客室数)を示しています。旅館等営業施設数とは、旅館業法に基づく許可を受けた宿泊施設の客室数の合計を指します。
データの分析から、以下のような特徴が見られます:
- 分布の歪み: 旅館等営業施設数の分布は正の歪みを示しており、平均値(約40,000室)が中央値(約25,000室)を上回っています。これは東京都や北海道などの突出した地域が平均値を押し上げているためです。
- 明確な外れ値の存在: 東京都(205,381室)は明らかな外れ値であり、第2位の北海道(123,430室)、第3位の大阪府(122,729室)との間にも大きな差があります。
- 四分位範囲: 上位25%の都道府県(第3四分位)は約60,000室以上、下位25%(第1四分位)は約15,000室以下となっており、中間50%の範囲も比較的広く、地域間格差の大きさを示しています。
- 標準偏差の大きさ: 標準偏差は大きく、都道府県間のばらつきが顕著であることを示しています。
- 地域的な集中: 東京都、北海道、大阪府、静岡県、愛知県の上位5県で全国の旅館等営業施設の約40%を占めており、特定地域への集中が見られます。
まとめ
旅館等営業施設数は地域の観光資源や都市規模、交通アクセスなどを反映する重要な指標です。東京都や北海道などの主要観光地や大都市圏で多くの宿泊施設が集中する一方、佐賀県や徳島県などの観光資源が比較的少ない県では宿泊施設数も少ない状況にあります。
この地域間格差は、観光資源の分布や知名度、交通アクセスの利便性など様々な要因によって形成されてきました。特に近年ではインバウンド需要の増加により、外国人観光客に人気の高い地域での宿泊施設の増加が見られます。
今後は、新型コロナウイルス感染症からの回復過程で、宿泊需要の質的変化も予想されます。密を避けた小規模な宿泊施設へのニーズや、長期滞在型の宿泊施設、ワーケーションに対応した施設など、多様な宿泊ニーズに対応した施設の整備が求められています。
また、宿泊施設は単なる「泊まる場所」から、地域の文化や食、体験を提供する「観光の中核施設」へと役割が変化しています。特に宿泊施設数が少ない地域では、地域の特色を活かした魅力的な宿泊体験の提供により、競争力を高めることが重要です。
宿泊施設数の地域差は、日本の観光政策における重要な課題であり、地域の特性を活かした宿泊施設の整備と、広域観光ルートの形成による宿泊需要の創出が求められています。