概要
粗死亡率とは、人口1000人あたりの死亡数を示す指標です。この記事では、2022年度の都道府県別粗死亡率のランキングを紹介します。
粗死亡率は、その地域の人口動態や健康状態を示す重要な指標であり、地域の高齢化の進行度や医療環境などを反映しています。この値が高いほど、その地域で多くの死亡が発生していることを意味しますが、単純に医療環境の良し悪しを示すものではなく、主に人口構造(特に高齢化率)の影響を強く受けます。
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上位県と下位県の比較
粗死亡率が低い上位5県
2022年度の粗死亡率ランキングでは、東京都が9.92(偏差値70.7)で全国1位となりました。東京都は20代から30代の若年層の割合が高く、これが低い粗死亡率に反映されています。
2位は沖縄県で10.25(偏差値68.9)、3位は滋賀県で10.68(偏差値66.7)、4位は神奈川県で10.70(偏差値66.6)、5位は愛知県で10.83(偏差値65.9)となっています。上位県には大都市圏の都府県が多く、若年層の流入による人口構造の若さが低い粗死亡率の主な要因と考えられます。沖縄県も高齢化率が低く、若年層の割合が高いことから、低い粗死亡率を示しています。
粗死亡率が高い下位5県
最も粗死亡率が高かったのは秋田県で18.55(偏差値25.3)でした。秋田県は高齢化率が全国で最も高い県の一つであり、若年層の流出も続いていることから、高い粗死亡率を示しています。
46位は高知県で16.97(偏差値33.6)、45位は青森県で16.71(偏差値34.9)、44位は岩手県で16.38(偏差値36.7)、43位は山形県で16.22(偏差値37.5)となっています。下位県には高齢化が進行している地方の県が多く、人口構造の高齢化が高い粗死亡率の主な要因と考えられます。
地域別の特徴分析
東北地方の高い粗死亡率
東北地方では、秋田県(47位、18.55)を筆頭に、青森県(45位、16.71)、岩手県(44位、16.38)、山形県(43位、16.22)、福島県(35位、15.30)と、宮城県(10位、12.30)を除いて全ての県が高い粗死亡率を示しています。これらの地域では、若年層の流出による人口構造の高齢化が進行しており、高い粗死亡率の主な要因となっています。特に秋田県は高齢化率が38.4%(2022年時点)と全国で最も高く、これが極めて高い粗死亡率に反映されています。
首都圏の低い粗死亡率
首都圏では、東京都(1位、9.92)、神奈川県(4位、10.70)、埼玉県(6位、11.21)、千葉県(7位、11.53)と、いずれも低い粗死亡率を示しています。これらの地域では、教育機関や雇用機会の多さから若年層の流入が多く、人口構造が比較的若いことが低い粗死亡率の主な要因となっています。特に東京都は、20代から30代の若年層の割合が高く、これが低い粗死亡率に反映されています。
中部・東海地方の状況
中部・東海地方では、愛知県(5位、10.83)が特に低い粗死亡率を示しています。愛知県は製造業を中心とした雇用機会の多さから若年層の流入が多く、人口構造が比較的若いことが低い粗死亡率の要因と考えられます。一方、富山県(32位、14.80)や新潟県(33位、15.01)などの日本海側の県は、若年層の流出による人口構造の高齢化が進行しており、比較的高い粗死亡率を示しています。
近畿地方の多様な状況
近畿地方では、和歌山県(41位、15.84)が高い粗死亡率を示す一方、滋賀県(3位、10.68)や大阪府(9位、12.10)は低い粗死亡率となっています。和歌山県の高い粗死亡率は、若年層の流出による人口構造の高齢化が主な要因と考えられます。一方、滋賀県や大阪府の低い粗死亡率は、雇用機会の多さや教育機関の集中による若年層の流入が影響していると考えられます。
四国・九州地方の高い粗死亡率
四国地方では、高知県(46位、16.97)、徳島県(39位、15.58)、愛媛県(36位、15.31)、香川県(29位、14.51)と、全ての県が比較的高い粗死亡率を示しています。九州地方も、宮崎県(37位、15.31)、鹿児島県(38位、15.31)、長崎県(34位、15.05)など、沖縄県(2位、10.25)を除いて比較的高い粗死亡率を示しています。これらの地域では、若年層の流出による人口構造の高齢化が進行しており、高い粗死亡率の主な要因となっています。
粗死亡率の格差がもたらす影響と課題
人口構造と高齢化の関係
粗死亡率の地域間格差は、主に人口構造、特に高齢化率の差を反映しています。高齢化率が高い地域では必然的に粗死亡率も高くなる傾向があります。例えば、秋田県の高齢化率は38.4%(2022年時点)で全国1位、粗死亡率も18.55で全国47位(最も高い)となっています。一方、沖縄県の高齢化率は22.1%(2022年時点)で全国最下位、粗死亡率も10.25で全国2位(東京都に次いで低い)となっています。この関係は、人口の高齢化が進むと死亡率が上昇するという自然な現象を示しています。
医療・福祉サービスへの影響
粗死亡率の高い地域では、高齢者向けの医療・福祉サービスの需要が高まる傾向があります。特に終末期医療や介護サービスの需要が増大し、これらのサービス提供体制の整備が課題となっています。一方、若年層の流出により医療・福祉人材の確保が困難になるという矛盾も生じています。例えば、秋田県では医師の高齢化と若手医師の不足が問題となっており、医療提供体制の維持が課題となっています。
地域経済への影響
粗死亡率の高い地域では、人口減少と高齢化により地域経済が縮小する傾向があります。労働力人口の減少による産業の衰退や、消費市場の縮小による経済活動の停滞が懸念されます。また、高齢者の医療・介護費用の増大は、地方自治体の財政を圧迫し、さらなる経済的困難をもたらす可能性があります。例えば、高知県では高齢化に伴う社会保障費の増大が財政を圧迫し、地域経済の活性化策の実施が困難になっているという課題があります。
地域コミュニティの変容
粗死亡率の高い地域では、人口減少と高齢化により地域コミュニティの維持が困難になる傾向があります。特に過疎地域では、集落の消滅や伝統文化の継承の危機など、地域社会の存続自体が脅かされる状況も生じています。例えば、島根県の中山間地域では、高齢化率が50%を超える集落も多く、地域コミュニティの維持が大きな課題となっています。
地方創生と人口維持の必要性
粗死亡率の地域間格差を是正するためには、若年層の地方定着や移住促進など、人口構造のバランスを改善する取り組みが重要です。特に高齢化が進む地方では、雇用創出や生活環境の整備、教育機会の充実など、若年層の定着を促す総合的な地方創生策が求められています。例えば、島根県では「しまね暮らし」推進プロジェクトを通じて、UIターン者の受け入れ体制の整備や、若者の起業支援などを行い、人口構造の改善を図る取り組みを進めています。
統計データの基本情報と分析
統計的特徴の分析
2022年度の都道府県別粗死亡率データを統計的に分析すると、以下のような特徴が見られます:
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平均値と中央値の比較:平均値は約14.14、中央値は約14.48とほぼ同じ値を示していますが、秋田県(18.55)という極端に高い値と東京都(9.92)という極端に低い値があるため、分布の両端に外れ値が存在しています。
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分布の歪み:データは全体としては対称的ですが、秋田県(18.55)や高知県(16.97)などの上側の外れ値があるため、わずかに正の歪み(右に裾を引いた形状)を示しています。
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外れ値の特定:秋田県(18.55)は明らかな上側の外れ値と考えられます。また、東京都(9.92)や沖縄県(10.25)、愛知県(10.83)なども下側の外れ値と考えられます。
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四分位範囲による分布の特徴:第1四分位数(Q1)は約12.30、第3四分位数(Q3)は約15.80で、四分位範囲(IQR)は約3.50ポイントです。これは、中央の50%の都道府県の粗死亡率が12.30から15.80の間に収まっていることを示しています。
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標準偏差によるばらつき:標準偏差は約2.35ポイントで、多くの都道府県が平均値から±2.35ポイントの範囲内に分布していることを示しています。変動係数(標準偏差÷平均値)は約16.6%となり、相対的なばらつきは中程度と言えます。最高値と最低値の差は8.63ポイント(18.55−9.92)に達し、東京都と秋田県の間には大きな格差があることを示しています。
まとめ
2022年度の都道府県別粗死亡率ランキングでは、東京都が9.92で1位(最も低い)、秋田県が18.55で47位(最も高い)となりました。上位(低い粗死亡率)には大都市圏の都府県や沖縄県が多く、下位(高い粗死亡率)には高齢化が進行している地方の県が多く見られました。
粗死亡率の地域差は、主に人口構造、特に高齢化率の差を反映しており、若年層の流出が続く地方では高い粗死亡率を示す傾向があります。この差は、医療・福祉サービスの需要、地域経済、地域コミュニティなど多方面に影響を与えています。
統計分析からは、秋田県や高知県が突出して高い粗死亡率を示す一方、東京都や沖縄県、愛知県などが特に低い粗死亡率を示していることがわかります。また、多くの都道府県は12.30から15.80の範囲に集中しており、中程度の粗死亡率を示しています。
地方創生と人口維持の取り組みは、粗死亡率の地域間格差を是正するために重要な課題です。特に高齢化が進む地方では、若年層の定着や移住促進を通じて人口構造のバランスを改善し、地域の持続可能性を高める取り組みが求められています。