都道府県別労働者災害補償保険給付平均支給額ランキング(2022年度)

概要

労働者災害補償保険給付平均支給額とは、労働災害や通勤災害により負傷・疾病・障害・死亡した労働者やその遺族に対して支給される保険給付の平均額を示す指標です。この指標は、地域の労働環境や産業構造、労働災害の重篤度などを反映しています。2022年度のデータによると、四国や中国地方で高く、関東の一部や地方都市で低い傾向が見られます。

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上位県と下位県の比較

上位5県と下位5県の詳細説明

上位5県

1位は徳島県78,100円(偏差値71.3)と全国で最も高い平均支給額を示しています。徳島県は製造業や建設業などの比較的危険度の高い業種の割合が高く、また重篤な労働災害の発生も影響していると考えられます。さらに、賃金水準も地方としては比較的高いことが支給額に反映されています。

2位は香川県77,000円(偏差値69.7)となっています。香川県も製造業が盛んであり、特に造船業や食品加工業における労働災害の発生状況が高い支給額に影響していると考えられます。

3位は山口県75,400円(偏差値67.3)です。山口県は化学工業や製鉄業などの重工業が盛んな地域であり、これらの産業における労働災害の重篤度が高いことが要因と考えられます。

4位は福岡県74,900円(偏差値66.5)、5位は熊本県71,700円(偏差値61.8)となっています。福岡県は九州最大の都市圏であり、多様な産業が集積していることに加え、工業地帯や港湾施設での労働災害が影響していると考えられます。熊本県は製造業や建設業での労働災害に加え、2016年の熊本地震以降の復興工事に関連する労働災害の影響も考えられます。

下位5県

46位(同率)は神奈川県宮崎県53,000円(偏差値34.1)と最も低い平均支給額となっています。神奈川県は大都市圏でありながら平均支給額が低い点が特徴的で、サービス業や情報通信業など比較的労働災害の少ない産業の割合が高いことが影響していると考えられます。宮崎県は農業や観光業が中心の産業構造であり、労働災害の重篤度が低いことと賃金水準が低いことが要因と考えられます。

45位は東京都53,600円(偏差値35.0)となっています。東京都もサービス業や情報通信業の割合が高く、製造業や建設業などの労働災害リスクの高い業種の割合が相対的に低いことが影響していると考えられます。また、医療や福祉分野での比較的軽度の労働災害が多いことも要因の一つと考えられます。

44位は岐阜県54,400円(偏差値36.1)、43位は山形県55,100円(偏差値37.2)となっています。両県とも地方圏に位置し、特に岐阜県は繊維産業など比較的軽度の労働災害が多い産業構造を持つことが要因と考えられます。山形県は農業が盛んな地域であり、賃金水準の低さや労働災害の性質が影響していると考えられます。

地域別の特徴分析

中国・四国地方の高さ

中国・四国地方の平均は約71,900円と全国で最も高い水準にあります。特に徳島県(1位、78,100円)、香川県(2位、77,000円)、山口県(3位、75,400円)、岡山県(6位、71,500円)、鳥取県(7位、71,400円)など上位に集中しています。この地域では製造業や化学工業、造船業などの重工業が盛んであり、また高齢労働者の割合も高く、これらが重篤な労働災害につながっている可能性があります。

九州地方の二極化

九州地方では福岡県(4位、74,900円)、熊本県(5位、71,700円)、鹿児島県(10位、70,900円)など上位に位置する県がある一方、宮崎県(46位、53,000円)が最下位に位置しており、地域内での格差が顕著です。上位県では製造業や建設業が盛んである一方、下位県では農業や観光業の割合が高いことが影響していると考えられます。

関東地方の意外な低さ

一般的に賃金水準が高いとされる関東地方、特に東京都(45位、53,600円)や神奈川県(46位、53,000円)が下位に位置していることは興味深い特徴です。これらの地域ではサービス業や情報通信業の割合が高く、労働災害の発生率や重篤度が低い可能性があります。また、医療・福祉分野での比較的軽度の労働災害が多いことも要因と考えられます。

近畿地方の中位傾向

近畿地方は大阪府(16位、67,100円)や和歌山県(12位、69,700円)などが上位から中位に位置しており、地域全体の平均は約63,700円と全国平均(約63,700円)とほぼ同水準です。この地域では製造業とサービス業がバランス良く発展しており、労働災害の発生状況も全国平均に近い傾向があります。

産業構造と支給額の関係性

重工業地域での高い支給額

化学工業や製鉄業、造船業などの重工業が盛んな山口県(3位、75,400円)や香川県(2位、77,000円)などでは平均支給額が高くなっています。これらの産業では労働災害の重篤度が高く、また賃金水準も比較的高いことが支給額に反映されています。

サービス業中心地域での低い支給額

東京都(45位、53,600円)や神奈川県(46位、53,000円)などのサービス業や情報通信業の割合が高い地域では、労働災害の発生率や重篤度が低く、平均支給額も低くなる傾向があります。特に軽度の労働災害(腰痛やストレス性疾患など)が多いことが特徴です。

農業地域の特徴

宮崎県(46位、53,000円)や山形県(43位、55,100円)など農業が盛んな地域では、農作業における労働災害の性質(比較的軽度であることが多い)や賃金水準の低さから平均支給額が低くなる傾向があります。

格差や課題の考察

地域間格差の要因

最も高い徳島県78,100円)と最も低い神奈川県宮崎県53,000円)の差は25,100円と大きく、この格差の背景には産業構造の違いだけでなく、労働災害の認定基準や申請率の地域差も影響している可能性があります。

賃金格差と支給額の関連

労災保険給付額は被災労働者の賃金をベースに算定されるため、地域の賃金水準が支給額に直接影響します。しかし、大都市圏の東京都神奈川県が下位に位置していることから、単純な賃金格差だけでは説明できない要因が存在していると考えられます。

労働安全対策の課題

支給額が高い地域では重篤な労働災害が多い可能性があり、労働安全対策の強化が課題となっています。一方、支給額が低い地域でも、軽度であっても労働災害の発生自体を減らす取り組みや、適切な補償が受けられる環境整備が重要です。

統計データの基本情報と分析

統計的分析

全国の労働者災害補償保険給付平均支給額の平均値は約63,700円中央値は約62,900円となっており、平均値が中央値をやや上回っていることから、一部の高い値を持つ都道府県が平均を引き上げていることがわかります。

最大値(徳島県の78,100円)と最小値(神奈川県・宮崎県の53,000円)の差は25,100円と大きく、都道府県間の格差が顕著です。

標準偏差は約6,700円で、データのばらつきは比較的大きいと言えます。特に、上位の四国・中国地方と下位の関東地方の一部には明確な差があり、地域による労働環境や産業構造の違いが表れています。

四分位範囲を見ると、上位25%の都道府県は69,700円以上、下位25%の都道府県は57,900円以下となっており、中間50%の都道府県は比較的近い値に集中しています。これは、極端に高い一部の都道府県と、極端に低い一部の都道府県を除けば、多くの都道府県が似通った状況にあることを示しています。

まとめ

2022年度の労働者災害補償保険給付平均支給額は、徳島県が78,100円で全国1位、神奈川県と宮崎県が53,000円で全国46位(同率最下位)となりました。中国・四国地方の県々が上位を占める一方、東京都や神奈川県といった大都市圏が下位に位置するという興味深い結果となっています。

この指標は、地域の労働環境や産業構造、労働災害の質を反映しており、労働安全衛生対策の効果を測る上で重要な視点を提供しています。特に、地域特性に応じた労働災害防止策の立案や、適切な補償制度の運用が求められます。

今後の課題としては、労働災害の発生率の低減と同時に、発生した際の適切な補償が確保されるよう、地域ごとの取り組みを強化することが重要です。

出典