2018年度の都道府県別就業者1人当たり農業産出額は、北海道が1,304.2万円(偏差値98.7)で全国1位、奈良県が209.6万円(偏差値40.4)で最下位となりました。この約6.2倍の格差は、大規模農業と小規模農業の生産性格差を明確に示しています。就業者1人当たり農業産出額は、各地域の農業経営効率性や技術水準を測る重要な指標です。
概要
就業者1人当たり農業産出額は、農業従事者1人が年間で創出する農業生産額を示し、農業の労働生産性を測る重要な経済指標です。この数値により、各地域の農業経営効率性、技術革新水準、そして農業従事者の所得水準を客観的に比較できます。地域の農業競争力や持続可能性を評価する基礎データとしても活用されています。
2018年度のデータでは、全国平均389.5万円に対し、大規模経営が可能な地域と小規模農家中心の地域で大きな差が生じています。北海道をはじめとする上位県では、広大な農地と機械化により高い生産性を実現しています。一方、都市化の影響を受けた地域では、農地面積の制約により生産性が制限される傾向があります。
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上位県と下位県の比較
上位5県の詳細分析
北海道(1位)
1,304.2万円(偏差値98.7)で圧倒的な首位を獲得しています。広大な土地を活用した大規模畑作、稲作、酪農により、本州の数十倍の経営面積を実現しています。高度な機械化と効率的な生産管理システムが、突出した労働生産性を支えています。てん菜、じゃがいも、小麦などの輪作体系と、世界レベルの酪農技術が相乗効果を生み出しています。
鹿児島県(2位)
840.2万円(偏差値74.0)で2位にランクインしています。温暖な気候を最大限に活用し、黒豚や黒毛和牛などの高品質畜産物を生産しています。さつまいもやお茶の特産品化、焼酎原料の安定供給など、地域資源を活かしたブランド戦略が成功しています。効率的な流通ネットワークと技術革新への積極投資が高い生産性を実現しています。
宮崎県(3位)
762.0万円(偏差値69.8)で3位に位置します。最先端の施設園芸により、ピーマン、きゅうり、マンゴーなどの高単価作物を周年生産しています。宮崎牛ブランドの確立と、ICT技術を活用した精密農業の導入が特徴的です。温暖な気候と技術革新の組み合わせにより、高い付加価値農業を実現しています。
千葉県(4位)
580.2万円(偏差値60.2)で4位となっています。首都圏への近接性を活かし、新鮮な農産物の効率的な供給体制を構築しています。大規模な野菜生産と、直売所やファーマーズマーケットなどの多様な販売チャネルが特徴です。観光農業の展開や、都市住民との交流事業により、農業の新たな価値創造に成功しています。
群馬県(5位)
557.7万円(偏差値59.0)で5位にランクインしています。高原地帯を活用したキャベツやレタスの大規模生産が主力となっています。こんにゃく芋では全国シェア90%以上を誇り、特産品の優位性を確立しています。首都圏への優れたアクセス性により、効率的な物流システムと競争力のあるコスト構造を実現しています。
下位5県の詳細分析
奈良県(47位)
209.6万円(偏差値40.4)で最下位となっています。県土の多くを山地が占め、平坦な農地面積が限定的です。小規模農家と兼業農家の比率が高く、構造的な生産性向上の課題を抱えています。古都の景観を活かした観光農業や、大和野菜などの伝統品種復活により、新たな付加価値創造に取り組んでいます。
東京都(46位)
218.5万円(偏差値40.9)で46位です。極度の都市化により農地面積が大幅に制限されています。練馬大根や江戸東京野菜の復活プロジェクト、都市住民向けの体験農園運営など、都市農業としての独自価値を模索しています。高い地価と限られた農地面積が、生産性向上の制約要因となっています。
大阪府(45位)
224.4万円(偏差値41.2)で45位に位置します。都市化の進展により農地が大幅に減少し、小規模経営が中心となっています。なにわ伝統野菜のブランド化や、都市住民との交流を重視した農業体験事業を展開しています。都市近郊農業としての新たな役割と価値創造が求められています。
山口県(44位)
231.0万円(偏差値41.6)で44位となっています。山間部が多く、平坦な農地が少ないことが農業産出額の少なさに影響しています。小規模農家の割合が高く、機械化や効率化による生産性向上が課題です。地域資源を活用した特産品開発に取り組んでいます。
島根県(43位)
246.8万円(偏差値42.4)で43位です。中山間地域が多く、大規模化が十分に進んでいません。小規模農家の割合が高く、機械化や効率化による生産性向上が課題です。環境保全型農業の推進により、持続可能な農業システムの構築を目指しています。
地域別の特徴分析
北海道・東北地方
北海道が1,304.2万円で圧倒的な首位を占める一方、東北各県は300万円台から400万円台の中位に位置しています。北海道の大規模農業と東北の米作中心の農業構造の違いが明確に表れています。東北地方では青森県のりんご、秋田県の米など、特産品を活かした高付加価値化が進められています。地域全体として、規模拡大と技術革新による生産性向上が重要な課題となっています。
関東地方
千葉県580.2万円、群馬県557.7万円、茨城県が上位グループを形成し、首都圏という巨大消費地への近接性を最大限に活用しています。栃木県も中位に位置し、関東平野の肥沃な土地と交通インフラを活かした効率的な農業を展開しています。一方、東京都218.5万円は都市化の影響で生産性が制約されていますが、都市農業としての新たな価値創造に取り組んでいます。埼玉県、神奈川県も都市近郊農業の特色を活かした農業展開を図っています。
中部地方
新潟県の米作、長野県の高原野菜、静岡県の茶などが特徴的で、各県が地域資源を活かした農業を展開しています。全体的に中位から下位に分布しており、300万円台から400万円台の県が多くなっています。山間地が多い地形的制約がある一方、品質重視の農業により差別化を図っています。愛知県では都市近郊農業と工業との調和が特徴的です。
関西地方
奈良県209.6万円、大阪府224.4万円が下位に集中し、都市化の影響が顕著に表れています。限られた農地面積の中で、伝統野菜や観光農業など、地域資源を活用した新たな価値創造が模索されています。兵庫県、和歌山県も中位から下位に位置し、都市近郊農業としての役割転換が求められています。関西地方全体として、高付加価値化と都市住民との交流強化が重要なテーマとなっています。
中国・四国地方
全体的に中位に位置する県が多く、400万円前後の水準となっています。中山間地域が多い地形的特徴により、大規模化には制約がありますが、特産品の開発と品質向上に取り組んでいます。島根県、鳥取県、徳島県、高知県などでは、地域固有の農産物を活かしたブランド化戦略が進められています。人口減少と高齢化が進む中で、持続可能な農業システムの構築が課題となっています。
九州・沖縄地方
鹿児島県840.2万円、宮崎県762.0万円が上位にランクインし、温暖な気候を活かした畜産業と施設園芸が高い生産性を実現しています。熊本県、大分県も中位以上に位置し、九州全体として農業生産性が比較的高い傾向があります。福岡県、佐賀県、長崎県も特色ある農業を展開し、沖縄県は亜熱帯気候を活かした独自の農業を発展させています。地域全体として、ブランド農産物の開発と輸出促進が積極的に進められています。
社会的・経済的影響
北海道1,304.2万円と奈良県209.6万円の格差は約6.2倍に達し、日本農業の構造的課題を浮き彫りにしています。この格差は経営規模、地理的条件、産業構造の違いが複合的に作用した結果です。
主な格差要因として以下が挙げられます:
- 経営規模の格差:北海道の平均経営面積約30haに対し、都府県は約2haと15倍の差
- 地理的条件:平坦で大区画の農地と中山間地の作業効率格差
- 産業構造:高付加価値農業と一般的な米作中心農業の収益性格差
- 技術導入:大規模経営ほど機械化・IT化の恩恵を受けやすい構造
社会への波及効果は深刻で、高生産性地域では農業所得増加により地域経済が活性化する一方、低生産性地域では農業衰退が地域経済全体の脆弱化を招いています。若年層の農業離れと都市部への人口流出が加速し、地方の過疎化と高齢化を促進する悪循環が形成されています。また、効率的な生産地域への農業集約化により、特定地域への生産集中が進み、自然災害等によるリスクが増大する可能性があります。
対策と今後の展望
上位県では技術革新の継続とスマート農業の導入拡大により、さらなる生産性向上を目指しています。新規参入促進策や経営継承支援システムの充実により、持続的な発展基盤を構築しています。下位県では地域資源を活かした高付加価値農業、6次産業化の推進、観光農業の展開が有効な戦略となっています。
ICT活用による効率化、小規模でも高収益な農業モデルの構築、共同化による実質的な規模拡大支援が重要です。直売所やネット販売の活用、ブランド化支援、消費者との直接的なつながり強化により、新たな価値創造を図っています。全国的には条件不利地域への支援強化、農業教育の充実、研究開発投資の拡大とともに、農工商連携の推進や異業種参入促進による新しいビジネスモデルの構築が求められています。
統計データの基本情報と分析
全国平均は389.5万円、最小値は209.6万円(奈良県)、最大値は1,304.2万円(北海道)です。北海道(1,304.2万円)は平均の3.35倍で、明確な外れ値として分布に影響を与えています。偏差値60超の県が5県(北海道・鹿児島・宮崎・千葉・群馬)存在する一方、偏差値40未満の県が5県あり、農業生産性の地域格差が顕著です。
まとめ
- 北海道で圧倒的な農業生産性
- 九州・関東地方で農業生産性が高い
- 大都市圏で農業生産性が低い
- 地域特性を活かした農業振興が重要
- 高付加価値化と新技術導入が急務
今後は地域特性を活かした農業政策の推進と、農業生産性の向上、持続可能な農業の構築が重要です。